未来の人間の役割

AIでは見えない本質を探る:未来の課題解決に不可欠な「問いを立てる力」

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AI時代だからこそ見直したい「問い」の価値

AI技術の進化は目覚ましいものがあり、私たちの仕事や生活に多大な変化をもたらしています。特に、大量のデータを分析し、パターンを見つけ出し、効率的な「答え」を導き出す能力は、多くの業務を自動化し、生産性を向上させる可能性を秘めています。地方自治体の現場においても、AIによる業務効率化やデータに基づいた政策立案への期待が高まっていることと思います。

しかし、AIがどれほど高性能になっても、それが導き出すのはあくまで既存のデータに基づいた「最適な解」です。地域が抱える課題の中には、数値データだけでは捉えきれない複雑さや、住民一人ひとりの多様な声、歴史や文化といった文脈が深く関わるものも少なくありません。こうした課題の本質を見抜き、真に価値ある解決策を生み出すためには、AIとは異なる、人間ならではの能力が不可欠となります。

その能力の一つが、「問いを立てる力」です。AIが「答え」を提供することに長けているならば、人間は「問い」を生み出すことにおいて、その独自の役割を発揮すべきです。

なぜ、今「問いを立てる力」が重要なのか

AIは、与えられた問いに対して、蓄積された知識やデータから最も確からしい答えやパターンを提示します。例えば、「過去のデータから見て、この地域で次に流行する感染症は何か?」という問いに対しては、高い精度で予測を出すことができるかもしれません。しかし、「そもそも、なぜ私たちは特定の感染症に対して脆弱なのか?」あるいは「地域住民が健康で安心して暮らすために、本当に必要なことは何だろうか?」といった、より深く、根本的な、あるいは新しい視点からの「問い」は、AIが自ら生み出すことは苦手とするところです。

地域課題は、表面的な問題だけでなく、その背後にある複雑な要因や構造が絡み合って生じています。例えば、ある地域の高齢者福祉サービスの利用率が低いというデータがあったとします。AIはデータから「広報が不足している」「サービス内容が高齢者のニーズと合っていない」といった仮説を立てるかもしれません。これらは有効な示唆です。しかし、そこに「なぜ、高齢者は外に出ることをためらうのだろう?」「彼らの抱える孤独や不安は、サービス利用とどう関係しているのだろう?」といった、データには直接現れにくい人間の感情や社会的な文脈に踏み込む「問い」を重ねることで、問題の根源にたどり着ける可能性が生まれます。

AIが提供するデータ分析や効率的な情報整理は、こうした「問い」を深めるための強力な手がかりとなります。しかし、その手がかりから真に重要な洞察を引き出し、新たな解決策へと繋げるためには、私たち人間が、常識や現状を疑い、異なる角度から物事を見つめ、「そもそも、これはどういうことだろう?」「本当にそうだろうか?」「他にどんな可能性が考えられるだろう?」といった「問い」を自ら立てる主体性を持たなければなりません。

「問いを立てる力」を育むために

では、AI時代において不可欠な「問いを立てる力」は、どのように育めば良いのでしょうか。いくつかの視点をご紹介します。

  1. 日常的な「なぜ?」を大切にする: 目の前の事象や情報に対して、「なぜそうなるのだろう?」「他にどんな原因が考えられるだろう?」と立ち止まって考えてみる習慣をつけることから始まります。特に、当たり前だと思っていることの中にこそ、本質を見抜くヒントが隠されていることがあります。
  2. 多角的な視点を取り入れる: 自分とは異なる立場の人(住民、事業者、他の部署の職員など)の話を聞く、異分野の本を読む、多様な価値観に触れるといった経験は、物事を一面だけでなく、多角的に捉える視野を広げ、「問い」の幅を豊かにします。
  3. 抽象度を上げて考える: 具体的な問題から一旦離れ、「これはより大きな視点で見るとどういう問題の一部だろうか?」「他の地域や分野では、似たような問題にどう対処しているだろうか?」といった抽象的な問いを立ててみることで、新たな気づきが得られることがあります。
  4. AIを「問い」のパートナーとして活用する: AIに大量の情報を整理させ、その要約や分析結果に対して「これはどういう意味だろう?」「この結果から、どんな新しい問いが生まれるだろう?」と問いかけてみる。あるいは、自分の立てた問いに対する反論や、異なる視点からの質問をAIに生成させてみることも有効です。AIを答えを出すためだけでなく、自身の思考を深めるためのツールとして活用するのです。

未来へ繋がる、自治体職員の「問い」

地方自治体職員の皆様は、日々の業務の中で、地域が抱える様々な課題に直面しています。AIが提供する効率化やデータ分析は、その解決に向けた強力なツールとなり得ます。しかし、そのツールを最大限に活かし、地域の本質的な課題解決へと繋げるのは、職員一人ひとりが持つ「問いを立てる力」です。

「このデータは何を示唆しているのだろう?」「住民のこの声の背景には何があるのだろう?」「私たちが本当に目指すべき『より良い地域』とは、具体的にどういう状態だろう?」――こうした問いを立て続け、探求する姿勢こそが、AI時代においても揺るぎない人間の価値であり、未来の地域づくりにおいて不可欠な力となります。

AIを賢く使いこなしながら、自身の内なる「問い」を磨き続けること。それが、変化の時代にしなやかに適応し、地域社会に真に貢献していくための確かな一歩となるはずです。