AIが担う効率化、人間が深める「問い」と「対話」:地域に根差した価値創造
AIの波がもたらす変化と、生まれる「時間」
近年、AI技術は目覚ましい進化を遂げ、私たちの仕事や生活に大きな変化をもたらし始めています。特に、定型的で反復的な業務においては、AIが人間を凌駕する効率を発揮する場面が増えてきました。日々の業務に追われる地方自治体職員の皆様の中には、「自分の仕事はAIに取って代わられるのではないか」という漠然とした不安を感じている方もいらっしゃるかもしれません。
確かに、書類作成の補助、データ入力、情報収集や分析の一次処理など、多くの定型業務はAIによって効率化される可能性があります。しかし、これは人間から仕事を奪うだけでなく、これまで定型業務に費やされてきた貴重な時間を「解放する」機会と捉えることもできます。では、このAIによって生まれた時間を、私たちはどのように活用すべきでしょうか。未来において、人間がAIと共存しながら地域で価値を発揮するために、私たちがより深く関わるべき領域、それは「問い」を立てること、そして「対話」を深めることにあると考えられます。
データだけでは見えない「問い」を探し出す力
AIは膨大なデータを高速で分析し、効率的な答えを導き出すのが得意です。例えば、過去のデータから特定の傾向を予測したり、手続きの最適なルートを提示したりすることは、AIの得意分野です。しかし、AIが出す答えは、あくまで与えられたデータや条件に基づいたものです。
一方、地域社会の課題は、データとして表れにくい複雑な要因が絡み合っています。住民の抱える「本当の悩み」や地域の隠れたニーズは、統計データや定型的なアンケートだけでは捉えきれないことが少なくありません。ここで重要になるのが、人間ならではの「問いを探し出す力」です。
「なぜ、この地域では高齢者の孤立が進むのだろう?」「この助成金が、本当に必要とする人に届いていないのではないか?」「形式的な手続きだけでなく、住民が本当に求めているサポートは何だろう?」
このような、「データはこう示しているが、現場の感覚とは違うぞ」「表面的な課題の裏には、もっと根深い問題があるのではないか」といった疑問を感じ取る力は、人間に固有のものです。長年の経験、多様な人々との関わり、地域への深い愛着があって初めて生まれる、肌感覚に基づいた洞察と言えるでしょう。AIが効率的に情報処理をする時代だからこそ、その情報だけでは見えない本質的な「問い」を見つけ出す人間の役割は、ますます重要になります。
効率化できない「対話」に価値を見出す
AIはチャットボットによる自動応答など、限定的なコミュニケーションを効率化できます。しかし、地域の様々な立場の人々と信頼関係を築き、互いの気持ちを理解し、合意形成を図るような「対話」は、依然として人間にしかできない領域です。
「〇〇さん、最近お元気ですか?」「この前お話しされていた件、どうなりましたか?」といったちょっとした声かけや、相手の表情や声のトーンから感情を察し、寄り添うような対応は、データやアルゴリズムだけでは難しい、人間的な配慮の積み重ねです。このような効率化できない「対話」の中にこそ、地域の「絆」が生まれ、住民の率直な声が引き出され、思いがけない課題解決のヒントが見つかることがあります。
行政サービスにおいても、手続きの説明を効率化することも大切ですが、住民が不安を感じていること、本当に求めている支援を丁寧に聞き取り、共感を示す「対話」は、信頼関係を築き、より質の高いサービス提供に繋がります。AIが情報伝達や定型的な手続きを担うことで生まれた時間を、私たちはこうした人間的な「対話」を深めるために使うことができます。
AIを「問い」と「対話」の強力なパートナーに
AIによる効率化は、人間から仕事を奪うものではなく、「問いを探し、対話を深める」という人間独自の活動に、より多くの時間とエネルギーを投資するための機会を与えてくれます。
AIが収集・分析したデータは、「問い」を立てる上での重要な手がかりとなります。例えば、AIが特定の地域の申請率が低いことを示した場合、「なぜ低いのだろう?」「手続きが難しい?」「情報が伝わっていない?」といった「問い」が生まれます。そして、その「問い」の答えを見つけるために、地域に出向いて住民と「対話」を重ねるのです。
また、AIは議事録の作成や要約、関連情報の検索などをサポートすることで、「対話」そのものに人間が集中できる環境を整備してくれます。AIは、決して人間の上位に立つものではなく、「問い」と「対話」という創造的で人間的な活動をサポートする強力なパートナーなのです。
未来へ向けた、自治体職員の新しい価値創造
AIが普及する未来において、自治体職員の皆様に期待される役割は、単なる「手続きの執行者」や「データの処理者」から、「地域の未来を共に考え、創り出すコーディネーター」へとシフトしていくでしょう。AIによる効率化で生まれた時間を活用し、地域の本質的な「問い」を探し出し、住民との「対話」を通じて共に解決策を見出すこと。これこそが、AIにはできない、地域に根差した人間ならではの価値創造です。
漠然としたAIへの不安を、「AIを道具として使いこなし、人間ならではの能力を最大限に発揮するチャンス」と捉え直してみてはいかがでしょうか。日々の業務の中で、「このデータは何を物語っているだろう?」「この住民の方は、本当は何を求めているのだろう?」と「問い」を立てる習慣をつけ、そして何よりも、地域の人々と心を通わせる「対話」の時間を大切にすること。それが、AIと共存する未来において、皆様が地域で、そしてご自身の中で、新しい価値を見出し輝くための羅針盤となるはずです。