AIが効率を追求する中で、人間が育む「遊び心」と「好奇心」:未来の地域創造に必要な力
AI時代の効率化と人間の役割
近年、AI技術の進化は目覚ましいものがあり、私たちの仕事や生活に大きな変化をもたらしています。特に、データ分析、ルーチンワークの自動化、情報検索など、効率化が求められる多くの領域でAIはその能力を発揮しています。地方自治体においても、AIの導入による業務効率化やデータに基づいた意思決定への期待が高まっています。
このような変化の中で、「私たちの仕事はどうなるのだろう」「人間はどんな価値を発揮できるのだろう」といった漠然とした不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。AIが「正しい答え」や「最も効率的な方法」を提示できるようになるにつれて、人間はただ指示されたタスクをこなすだけでなく、より高次の役割を担うことが求められるようになります。
これまで、AI時代における人間の役割として、共感力、倫理観、批判的思考、創造性などが挙げられてきました。これらは非常に重要であり、AIが代替できない人間の普遍的な価値です。加えて、本稿では、AIが得意とする「効率」や「最適解」の追求とは異なる次元で、人間が未来において重要な役割を果たすための要素として、「遊び心」と「好奇心」に焦点を当てたいと思います。
効率性だけでは見えない価値:「遊び心」と「好奇心」
AIは、与えられたデータやルールに基づき、設定された目標を最も効率的に達成する方法を見つけ出すのが得意です。しかし、私たちの現実の世界は、データやルールだけでは捉えきれない複雑さや偶発性、そして「意味」や「価値」に満ちています。
ここで重要になるのが、人間ならではの「遊び心」と「好奇心」です。
- 遊び心(Playfulness): これは単に遊ぶことではなく、物事を真面目に捉えすぎず、柔軟な発想で、楽しむ姿勢や、目的を持たずに試行錯誤する態度を指します。効率や成果だけにとらわれず、プロセスそのものを楽しんだり、予期せぬ発見を歓迎したりする心の余裕とも言えます。
- 好奇心(Curiosity): これは未知のものや、自分にとって新しい情報、異なる考え方に対して、純粋な探求心を持つことです。なぜ?どうなっているのだろう?と問いを立て、積極的に学び、理解しようとする内的な動機付けです。
AIがデータに基づいて論理的に最適な道筋を示す一方、遊び心や好奇心は、あえて非効率な道を選んでみたり、全く関係ないと思われる点と点を結びつけたり、予期せぬ偶然を楽しんだりする源泉となります。これは、新しいアイデアの誕生や、既存の枠組みを超えた問題解決に繋がる可能性を秘めています。
自治体職員が「遊び心」と「好奇心」を活かすには
日々の業務において、AIによる効率化が進むことで、これまでルーチンワークに費やしていた時間に「余白」が生まれるかもしれません。この余白を、単に次の効率的なタスクに充てるだけでなく、意図的に「遊び心」や「好奇心」を活かす時間として活用することが、未来の地域創造において非常に重要になります。
例えば、
- 地域住民との対話: マニュアル通りの手続きだけでなく、気軽に声をかけたり、何気ない会話を楽しんだりすることで、データやアンケートだけでは拾いきれない地域の生の声や隠れたニーズに気づくことがあります。
- 地域の探求: 業務とは直接関係なく、地域の歴史的な場所を訪れたり、地元のイベントに参加したり、普段通らない道を散策したりすることで、その地域の「肌感覚」や魅力、課題を五感で感じ取ることができます。
- 異分野との交流: 自分の部署や自治体の枠を超えて、NPO、企業、大学、他の自治体など、様々な立場の人と積極的に交流し、異なる視点や知識に触れることで、思わぬアイデアや連携の可能性が生まれます。
- 「なぜ?」を深掘り: 当たり前だと思っている業務プロセスや地域の現状に対して、「なぜこうなっているのだろう?」「もっと良い方法はないのだろうか?」と素朴な疑問を持ち、その背景や歴史、他の事例などを探求してみることで、根本的な課題解決の糸口が見つかることがあります。
- 小さな実験: 大掛かりな計画ではなくても、「こうしたらどうなるだろう?」という好奇心から、小さなイベントを企画してみたり、新しい情報発信の方法を試してみたりするなど、失敗を恐れずに実験してみることで、予期せぬ成果や学びが得られます。
これらの活動は、一見すると効率的ではない、あるいは直接的な成果に繋がらない「無駄」に見えるかもしれません。しかし、AIによる効率化が進んだ社会では、このような「無駄」の中にこそ、データや論理だけでは決して生み出せない、新しい価値や地域を豊かにするヒントが隠されているのです。住民との信頼関係の構築、地域の潜在的な魅力の発見、部署横断的な連携の促進など、これらはすべて遊び心や好奇心から生まれる偶発的な出会いや気づきによって育まれることが多いのです。
「遊び心」と「好奇心」を育むために
では、どうすれば日々の仕事の中で遊び心や好奇心を育むことができるでしょうか。
まずは、心持ちとして「完璧を目指しすぎない」「失敗を恐れない」という姿勢を持つことが大切です。AIは完璧を目指して最適化を行いますが、人間には不確実性や試行錯誤が必要です。また、意図的に「考えない時間」「目的を持たない時間」を設けることも有効です。コーヒーブレイク中にぼんやり外を眺めたり、いつもと違う道で帰ってみたり、興味を持った本を手に取ってみたりと、日常に小さな変化や余白を取り入れることから始めてみましょう。
そして、同僚や地域住民との対話の中で、疑問に思ったことを素直に質問してみたり、自分の興味関心について話してみたりすることも、好奇心を刺激し、新たな発見に繋がります。
未来を彩る人間の力
AIが社会基盤を支え、効率性を高めていく未来において、人間はAIにはできない、データや論理を超えた領域で独自の価値を発揮することが求められます。それは、共感や倫理といった人間性に加え、未知への探求を促す「好奇心」と、柔軟な発想や偶発性を歓迎する「遊び心」といった力です。
これらの力は、データだけでは見えない地域の「語り」を紡ぎ、効率だけでは測れない人々の「幸せ」を追求し、予期せぬ変化に「しなやか」に対応するための源泉となります。AIとの協働によって生まれた時間を活用し、ぜひ日々の業務の中に「遊び心」と「好奇心」を取り入れてみてください。それが、あなた自身の未来を、そして地域の未来を、より豊かで創造的なものへと彩る一歩となるはずです。