未来の人間の役割

AIが効率化する職場、人間が育む信頼関係

AI時代に職場で育むべき、かけがえのない「信頼関係」

近年、自治体においてもAI（人工知能）の活用が少しずつ進みつつあります。定型的な事務処理やデータ分析など、これまで人が多くの時間を費やしてきた業務の一部をAIが担うことで、業務の効率化や生産性の向上が期待されています。

このような変化の波は、私たちの日々の働き方や職場のあり方にも影響を与えています。AIが身近になるにつれて、「自分の仕事はどう変わるのだろう」「職場での人との関わりは薄れてしまうのではないか」といった漠然とした不安を感じている方もいらっしゃるかもしれません。

AIは確かに強力なツールであり、多くの効率化をもたらします。しかし、職場という空間は、単に業務をこなすだけの場所ではありません。そこには共に働く仲間がおり、日々様々なやり取りが生まれます。AIが進化し、効率化が進む時代だからこそ、改めて職場で育むべき大切なもの、それは「信頼関係」ではないでしょうか。

この記事では、AIによる効率化が進む職場で、なぜ信頼関係が重要になるのか、そしてそれをどのように育んでいけば良いのかについて考えていきます。

AIが職場にもたらす変化と、信頼関係への影響

AIの導入は、私たちの働き方に様々な変化をもたらします。

• 定型業務の自動化: 申請書の一次処理、FAQ対応、データ入力・集計など、ルールに基づいた定型的な業務はAIが得意とするところです。これにより、職員はより創造的、あるいは人間的な判断が必要な業務に時間を割けるようになります。
• コミュニケーションの変化: 問い合わせ対応や情報収集の一部をAIチャットボットなどが担うことで、人対人のコミュニケーションの頻度や形式が変わる可能性があります。メールやチャットツールでのやり取りが増え、偶発的な対面での会話や雑談が減ることも考えられます。
• 役割の変化: AIのサポート役として、AIが出力した情報の確認や、AIでは対応できない例外処理、より高度な判断などが人間の役割として強調されるようになります。

こうした変化は、業務効率を高める一方で、意図しない形で職員間の物理的・心理的な距離を生む可能性も秘めています。「隣の人が何をしているか見えにくくなる」「困ったときに気軽に声をかけにくくなる」といった状況が生まれると、情報共有が滞ったり、チームワークが損なわれたりする懸念も出てきます。

効率化だけでは生まれない価値：信頼関係の重要性

AIは膨大なデータを瞬時に処理し、最適な答えを導き出すことができます。しかし、複雑な地域課題や住民一人ひとりの多様なニーズ、あるいは予期せぬ事態への対応においては、データやロジックだけでは解決できない場面が多々あります。

このような状況で求められるのが、人間ならではの力です。

• 状況に応じた柔軟な判断: マニュアル通りにはいかないケースで、過去の経験や常識、複数の情報を総合して最善の判断を下す力。
• 非言語的な情報の理解: 相手の表情や声のトーンから真意を読み取る、場の空気を察するといった能力。
• 共感と寄り添い: 住民の悩みや不安に寄り添い、感情的な側面を含めて対応する力。
• チームでの協力と連携: 一人では解決できない課題に対し、異なる部署や担当者が知識や経験を持ち寄り、協力して取り組む力。

これらの人間的な力や、それを活かした課題解決は、職員間の「信頼関係」があってこそ円滑に進みます。互いの専門性や立場を尊重し、「この人になら安心して相談できる」「困ったときは助け合える」という信頼があるからこそ、活発な意見交換が生まれ、難しい課題にもチームとして立ち向かうことができるのです。

AIによる効率化は、ルーチンワークを減らし、こうした人間的な関わりや、より高度な判断・創造性が求められる業務に時間を振り向けるための「余白」を生み出すと考えることもできます。この余白を、単に作業時間の短縮としてだけでなく、「職場の信頼関係を育む時間」として意識的に活用することが、AI時代の職場においては非常に重要になります。

AI時代に「信頼関係」を育むためのヒント

では、具体的にAIが浸透する職場でどのように信頼関係を育んでいけば良いのでしょうか。いくつかのヒントをご紹介します。

1. 意識的なコミュニケーションの時間を設ける:

   • 業務連絡だけでなく、短い雑談や近況報告など、意識的に個人的なやり取りをする機会を持つ。
   • オンラインツールを活用する場合でも、テキストだけでなく、必要に応じてビデオ会議なども活用し、非言語情報も伝わるように工夫する。
   • 「ほうれんそう（報告・連絡・相談）」を基本としつつ、困りごとや新しいアイデアなど、気軽に相談できる雰囲気を作る。

2. 情報共有の質を高める:

   • AIが出力したデータだけでなく、その背景にあるストーリーや、関連する非公式な情報なども共有する。
   • 「なぜこの業務が必要なのか」「この取り組みの目的は何か」といった、単なる手続きではない「意味」の部分を共有し、共感を醸成する。
   • 部署内やチーム内だけでなく、関係部署との情報交換も積極的に行い、縦割りになりがちな組織の中で横の繋がりを意識する。

3. 互いの「人間らしさ」を尊重する:

   • AIが得意な部分と人間が得意な部分を理解し、それぞれの強みを認め合う。
   • 単なる業務遂行のパーツとしてではなく、一人の人間として相手に関心を持ち、価値観や考え方を理解しようと努める。
   • 失敗を責めるのではなく、原因を共有し、次に活かす建設的な姿勢を持つ。心理的安全性が高いチームでは、活発な意見交換や新しい挑戦が生まれやすくなります。

4. AIを「共通のツール」として活用する:

   • AIを個人が業務を効率化するためのツールとしてだけでなく、チーム全体で情報を共有したり、協力して分析を進めたりするための共通基盤として捉える。
   • AIの利用方法や成果についてチームで話し合い、知見を共有することで、共同で課題に取り組む意識を高める。

まとめ：AIと共存する未来で、人が築く職場の価値

AIは、私たちの仕事をより効率的で創造的なものに変える大きな可能性を秘めています。しかし、どれだけ技術が進歩しても、職場で共に働く仲間との人間的な繋がりや、互いを支え合う信頼関係が失われてしまっては、組織全体の力は十分に発揮されません。

AIによる効率化で生まれた時間や心のゆとりを、職場の信頼関係を育むために意識的に使うこと。これは、AI時代における私たちの重要な役割の一つと言えるでしょう。温かい人間関係に支えられた職場は、働く人にとって安心できる場所であり、住民に対してよりきめ細やかで質の高いサービスを提供するための基盤ともなります。

AIを賢く活用しながら、職場の「信頼」というかけがえのない財産を大切に育んでいくこと。これが、AIと共存する未来の職場で、私たちが輝き続けるための鍵となるはずです。